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  現在では、世界全体の金融市場の70%近くを、このN・Y市場一箇所でまかなっているといわれる。アメリカの貿易総額だけでなく、たとえば日本からヨーロッパ向け、OPEC諸国から日本向け・・・といった第三国間の貿易取引についても、そのほとんどがN・Y市場を経由して行われているという。まさに、このN・Y金融市場の強さがドルの威信を支え、アメリカの底力を世界に誇っているのである。


地上400mで会食

WTCの107階から下界を眺む

  昼近くになったので、私達5人は世界貿易センタービルの107階にある会員制のレストランへ行くことになった。私は、107階と聞いただけで気が遠くなった。77、8階でエレベーターを乗り換えたときは、思わず立ちすくんでしまった。風の音がヒューヒューと聞こえ、まるでビル全体が揺れているようである。ホリイ氏によれば、風の強い日には実際、この大きなビルが揺れ動くそうだ。慣れているとはいえ、あまり気分のいいものではないと言われる。107階は穏やかで、実に素晴らしい眺めであった。ヘリコプターが下を飛んでいて、2、30階建てのビル足元に見えた。今日はいつになく晴れ渡っているとハマモト次長は言われる。レストランの窓からは、マンハッタン島の全貌が写し出され、まるで絵葉書のように網膜に刻みこまれていく。

  私達が座った丸いテーブルの周りを、背の高い黒人のウエイターがメニューを置きながら本日の特別料理をしゃべっている。ハマモト氏が、N・Yに来られたのだからぜひ生牡蠣、生蛤(ハマグリ)をと勧められた。私は、半分ずつ戴くことにし、メインは、ラム・ステーキにした。
  アメリカで食事をするときにはマティニは欠かせない。食前に飲むと、サッパリしていて粋な味である。ジン・ベースやウォッカ・ベースとマティニを飲む人によっては異なるし、またその人の好みによってベルモットの量や、グラスに入れるものがオリーブかさくらんぼうかと異なってくるのである。アメリカ人はマティニが大好きな国民だと聞くが、われわれ日本人はだいたいにおいて酒に弱いようである。橋本氏は、ほとんどといってよいほどマティニを注文される。かなりいけるほうなのであろう。しかし今回は、ハマモト氏と同様、ブラッディーメリーを注文された。あまり飲めない私にとって、一連の酒談義はとても参考になった。
  ハマモト氏は海外生活が長く、やはり子供の教育についてが悩みのタネであると言われる。来年の春には、お譲さんを大学受験のために日本へ行かせるつもりだとも言われる。ハマモト氏のような海外勤務の方々のそれとは裏腹に、日本経済力はここまでのし上がり、西ドイツ・マルク、スイス・フランとともに日本円は世界の三強通貨といわれるようになった。私達のように日本に住んでいる日本人が、海外へ旅行しても胸を張って歩けるのは、その国で働いている私達の同胞のお陰であることを忘れてはならない。
  デザートのババロワは、久しぶりの甘さで美味しかった。シカゴでは、ぜひステート通りにある「やなせ」という日本料理の店へ行きなさいとハマモト氏が推薦された。シカゴでは誰も知り合いがいなかったので、私達にとって渡りに舟であった。
  もう一度DKBのオフィスへ戻り、私の母の書いた紀貫之の色紙を贈って世界貿易センタービルをあとにした。