4.ニューヨークの卸商
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充実しそうな一日

  エレクション・デーの朝は頭がボーとして宿酔のようであった。4年に1度行われる大統領選挙の日である。レーガンかモンデールか、今夕には大勢が決まるであろう。企業によっては、今日は休みのところもあると聞いている。
  日立金属のハヤシ氏はヒルトンホテルのロビーで待っておられた。名刺を交換して早速自動車に乗って出発した。ハヤシ氏はハンドルを取りながら、今日1日のスケジュールを言われた。クイーンズ区にある住設関連の卸商を視察、みやげもの屋を回って、昼一番、ニュージャージーの工場関連の卸商を見学。そのあと日立金属のオフィスと倉庫を訪問、時間が許せば夕食をともにする、という、1日が充実しそうなフルコース・メニューであったが、お昼前のショッピングは遠慮させていただくことにした。車は国連本部横のクイーンズ・ミッドタウン・トンネルにさしかかった。
  クイーンズ区の街のたたずまいは、マンハッタン区のそれとは対照的であった。まず、建物の背が低いことが大きな違いである。N・Yの工業地帯といわれ、およそ1700以上の工場が林立している一方、住宅地としての性格を持っているそうだ。
  これから訪れる"Davis & Warshow"という卸商の経営者は、ハヤシ氏によるとユダヤ人で、社長は私達と同じくらいの年代であるという。踏切を渡って埃っぽい道路を進み、トラックヤードか資材置場に見える敷地に入っていった。
  こんな所に管材業界で全米50位以内に入る卸商があるのかと自分の目を疑った。知る人ぞ知るという感であり、平屋建てのレンガ造りのオフィスの前で車は止まった。

  オフィスの中はガラス越しに見えたが、ドアーは電子ロック式になっていた。わが国でも警察不信の世の中になれば、このようなことは普通になるだろうが、今の私達の常識では考えられないことである。ハヤシ氏が戻ってこられ私達は中へ通された。まず、社長自らの案内で倉庫から見せていただくことになった。
  倉庫はオフィスを『コ』の字型に囲んでいて、すべてが平屋建てであった。コの字のバックボーンとなる通路があり、左右に枝の通路がある形で、パイプなどの長尺物やバスタブ、業務用温水器などの比較的大きな物は、出入口に近いところに置かれていた。倉庫要員は水色のユニフォームを着ていて、至るところで商品の入出庫などをしていた。整理整頓はそんなに行き届いているとは思わなかったが、驚いたことに旋盤加工や組み立てのできる作業場があった。在庫は豊富に見えたが、成長商品と衰退商品がハッキリしていて、中にはデッドストックになっている商品があり、社長のフィンケル氏は諦め気味に嘆いておられた。

Davis&Warshowの前で・・・左から一瀬、福井、橋本の3氏、私