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責任と義務 顧客第一主義と人間尊重

  「お客様は神様です」というフレーズは高度成長時代流行った言葉です。確かにお客様あっての、商売の取引が成り立ちます。裏返せば仕入先があっての取引です。商品の品質、アフターサービス、立地条件、価格と納期などの取引条件が相整い商談が成立します。商取引は結婚と同じと考えていいでしょう。売り手と買い手は商取引では対等と言えるでしょう。
 安ければ安いほうが良い、というのは買い手のエゴです。高ければ高いほうが良いというのも売り手のエゴだと思います。詐欺まがいの商売や一回限りの商売ならそのエゴも生かされるが、商売は継続して、たくさんの人に喜んでいただき、お客様との信頼関係を築くことが、目的です。儲けること利潤追求は目的ではありません。商売をした結果なのです。「とにかく儲けるんだ」と意気込んでも会社経営は成功するだろうが、永続性という点からはたいへん不安定です。
 また、「企業は人なり」と言われるように、商売は人間関係業と言えます。人様のお役に立てる企業を目ざして、日々努力しているのなら、その企業は安定するでしょう。企業を取り巻く環境は、常に変化しています。数年前の環境と現在とは変わっていて当たり前のことです。だから常に市場を研究して、その時代にあったものを提供していくことをしなくては、企業は存続できません。
 ここで言う「顧客第一主義」という解釈は、企業を取り巻いているすべての人「「「 お客様はもちろんのこと、仕入先や社員など関係する人全部「「「「を大切にして、お役に立てる企業を作りあげることです。
 日本国憲法第11条に基本的人権というのがある。『国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる。』
 また第12条には、『国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う。』
 第13条《個人の尊重》『個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。』
 憲法によっても人間尊重は保障されているが、自分が権利をもっていることは、他人の権利をも尊重する義務を負っていると解釈される。お互いに権利があり、義務もあるのです。他人の権利を尊重する義務を履行しない限り、お互いの権利は十分に保障されないことになります。
 人間尊重を重視し、他人の意志を大切にして、その人間の個性を生かすことは、たいへん素晴らしいことだと思います。しかしながら、個人の自由尊重、個人主義など人間尊重ばかりが前面に出てしまっては、規律や秩序が疎かになり組織運営はできなくなります。トップはただ束ね役をする人になってしまいます。尊重という「表」だけでなく、「裏」に存在するものをしっかりと頭に入れておく必要があります。
 認めた側も任された側も、裏には責任と義務がついているのです。(1995.7 管材新聞掲載)