1.アメリカン・サプライ・ショー
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動き出したツアー

  胸のポケットに搭乗券を入れ、私たち3人は成田空港の北ウイングで待っていた。―――正面の免税店の前をキャリイを引きながら通り過ぎていく乗務員達。同じ色の服を着て同じ靴をはき、コートとバッグも同じようにそれぞれのキャリイに結びつけている。ただスカーフの巻き具合だけが違うところだ。―――私達が今から体験しようとしていることは、はたして意義があるのだろうか。単なる”後継者のわがまま”として片づけられるのかもしれない。
  黒いショルダーを肩にかけ、東京の橋本総業の橋本氏がやって来られた。これで全員がそろった。大阪の一ノ瀬バルブの一瀬氏、福井商事の福井氏、それと私のたった4人で組まれたツアーが動きだした。
  米国ジョージア州アトランタで開かれるアメリカン・サプライ・ショーを皮切りに、ヒューストン、ニューヨーク、シカゴとアメリカ事情視察の出発である。定刻19時00分、ユナイティッド・エアラインのジャンボは目的地アメリカに向け快適に大空へ舞い上った。落ちついたブラウンを基調としたキャビンの色あいが、私達の胸の高鳴りを鎮めてくれる。機内放送が入るが、英語に慣れていないせいか聞き取れない。
  『何か得るものはないか』ということで企画されたのがこのツアーであった。企画に当たっては、東京の橋本氏と大阪の福井氏が中心となられ、航空券などの手配もお二人にお願いした。私自身、アメリカ本土ははじめてで、まして語学力がないので単について行くだけでいいと心に決めていた。

  昨年の秋、このメンバーが集まったとき、飲んだ勢いで海外でも一緒に行くというスタディツアーを組んでみたらといったのがきっかけであったが、こんなに早く具体化するとは思ってもみなかった。


総合商社か専門商社

  飛行機の旅は実に壮快である。雲や気流の関係で揺れなければ安定もよく字もかける。今、太平洋岸標準時、朝10時。いよいよアメリカ到着である。シアトルの街並みを目で追いながら着陸態勢に入る。私達の訪米を歓迎しているかのごとく大地の轟きが足の底から伝わってくる。西海岸の北の玄関口といわれるだけあって、案内板には日本語が併記されていた。わずか8時間足らずということもあり、「本当にアメリカに着いたのか」と自分の目を疑ってしまう。ここシアトルで入国手続きである。
  最初の訪問地アトランタまで半分しか来ていない。シカゴ行のフライトまで待ち時間が3時間もあるので、ゆっくりと時間をかけて簡単な食事をすることにした。橋本氏と一瀬氏は、日本の大手バルブメーカーの値崩れの話をしている。もう少し私達卸問屋に発言力があればと思うが、どうしての私達の業界は行儀が悪いのであろうか。
 高度成長から安定成長へ移行してきたここ10年近く、ほとんどの大企業は新体制に改められ変貌したが、私達中小企業は、まだ依然として旧体制のまま生きながらえているようである。